2020年10月1日
相続の効力等に関する見直しについて
本稿では、令和元年7月1日施行の改正民法第899条の2第1項「共同相続における権利の承継の対抗要件」についてご紹介いたします。
今回の改正民法第899条の2第1項は、従来の扱いを大きく変えるような内容となっておりますので、ご留意ください。
従来、判例により(最判平3・4・19等)特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)は、特段の事情のない限り、遺産分割方法の指定であり、何らの行為を要せず、被相続人の死亡により直ちに当該遺産は、相続人に承継されるとされてきたため、当該相続人は、法定相続分を超える部分についても対抗要件である登記を備えることなく、第三者に対抗することができるとされてきました。
判例の考え方では、相続人は、いつまでも登記なくして第三者に所有権を対抗することができることになりかねず、遺言の内容を知りえない第三者は、法定相続分による権利の承継があったものと信頼して不測の損害を被るなどの取引の安全を害するおそれがあり、ひいては登記制度に対する信頼が損なわれることなどが指摘されていました。
そこで、改正民法第899条の2第1項は、遺言の内容を知りえない第三者の取引の安全を図るため、「相続させる」趣旨の遺言がなされた場合、相続分を超える部分については、登記を備えなければ第三者に対抗することができないとし、従来の判例法理を変更しました。なお、改正民法第899条の2第1項の適用対象には相続分の指定(遺言により、共同相続人の全部または一部の者に、法定相続分の割合と異なる割合で相続分を定めること又はこれを定めることを第三者に委託すること(民法902条))も含まれますので、法定相続分を超える相続分の指定についても、登記を備えなければ、第三者に対抗することができなくなりました。
これにより、たとえ法定相続分を超えて「相続させる」趣旨の遺言があったとしても、相続不動産について登記をしなければ、相続人は権利を失う恐れが出てきましたので注意が必要です。
例えば、相続人の債権者が、相続人に代わって法定相続分どおりに相続登記を入れたうえで、その持分について差押え等を行う場合が考えられます。(ちなみに、改正民法第899条の2第1項が対抗要件である登記を備えることを要求しているのは、法定相続分を超える部分についてだけであり、法定相続分を超えない部分については、対抗要件を備えることなく第三者に対抗することができる点については、改正前民法からの変更はございません。)
このような状況を避けるためには、相続不動産について法定相続分を超えて権利を取得した場合、相続開始後できるだけ早く、確実に登記手続きを行う必要があるため、登記の専門家である司法書士へご相談されることをお勧めいたします。
本稿では、「相続させる」趣旨の遺言全般の留意点をご案内させていただきましたが、配偶者居住権を相続させる旨の遺言の内容については、以下のコラムをご参照ください。
遺言による配偶者居住権の取得について
執筆者 司法書士 間中宏美